はじめに
製品開発において、安全性は性能やデザインと並ぶ最も重要な基本原則のひとつです。安全性の確保は、単なる規制遵守や形式的なチェックにとどまらず、企画段階からのリスク低減策や人間工学的配慮を組み合わせた、総合的かつ体系的なプロセスとして進められるべきです。特に「製品安全対策」「リスクマネジメント」「人間工学設計」「フェイルセーフ事例」といった観点を初期段階から盛り込み、設計思想に反映させることが重要です。こうした取り組みは、事故の未然防止に直結します。また、消費者の安心と信頼を確保すると同時に、メーカーのブランド価値や市場競争力を長期的に維持・向上させる礎にもなります。
企画・開発・設計段階でのリスク低減
製品安全対策の核心は、企画・開発・設計段階で潜在的な危険を網羅的に洗い出し、初期段階で対応策を講じることにあります。設計時に不具合やリスク要因を除去すれば、その後の製造工程で重大な欠陥や事故が発生する可能性は大幅に低減します。これには、技術的評価だけでなく、過去の事故事例の分析や市場での利用実態調査も含まれます。特に新技術や新素材を採用する場合は、従来想定されなかったリスクが潜在するため、より慎重な検証が求められます。
主な取り組み
- 関連法規・安全基準の遵守(最低条件)と定期的な基準見直し
- 危険分析(事故態様、被害程度、発生頻度をシナリオ別に想定)
- 想定外の誤使用パターンや過酷環境下での使用も含めた安全性評価
- 重要保安部品の特定、長期耐久性の確保、交換容易性を考慮した設計
人間工学の活用
人間工学は、製品と使用者の適合性を追求する学問であり、安全性向上の基盤となります。これは単なる操作性の改善にとどまらず、利用者の身体的特徴、認知能力、習慣、文化的背景までを含めた包括的な視点で設計に反映させるアプローチです。たとえば、操作部の形状や配置は、手の大きさや力加減に応じた設計が求められ、表示やインジケーターは誰でも理解しやすい言語・色・記号を用いる必要があります。また、高齢者や障がい者など多様な利用者層を想定し、誤操作を未然に防ぐガード機構やフィードバック機能を備えることも重要です。こうした配慮は、製品の安全性を高めるだけでなく、利用者の満足度や信頼性向上にも直結します。
安全装置とフェイルセーフ設計
危険分析の結果、リスクを完全に除去できない場合は、安全装置やフェイルセーフ機構を積極的に組み込みます。これは、異常や故障が発生した際にも被害を最小限に抑える「最後の砦」として機能する設計思想です。安全装置は物理的なものに限らず、ソフトウェアによる制御や警告システムも含まれます。フェイルセーフは「安全側に倒れる」動作を指し、機能停止や動作制限を通じて利用者や周囲の安全を確保します。設計段階では、これらが確実に作動するための冗長性や自己診断機能の追加も検討されます。
具体例
- 過負荷時に自動停止するモーター
- 過熱を防ぐ温度センサー
- 緊急停止スイッチ
- センサー異常時に出力を遮断する制御ソフト
- ドア開放時に動作を停止する安全インターロック
長期利用と想定外事象への対応
安全は出荷時点だけでなく、長期使用後や異常環境下でも維持されることが理想です。製品の耐用年数を通じて、部品の経年劣化、摩耗、腐食、熱や湿度の影響などによる性能低下を予測し、設計段階から対策を講じる必要があります。また、ユーザーによる改造や想定外の使用環境もリスク要因となるため、使用条件の明示やメンテナンス方法の提供、定期点検やリコール対応の体制を整えておくことが求められます。さらに、災害や異常気象といった予測困難な外的要因に備え、製品が安全側に動作する仕組みを組み込むことも重要です。
出典: 製品安全論|関西大学社会安全学部
情報発信と教育
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)は、製品事故情報の収集・分析・発信を行い、再発防止と安全設計の普及を推進しています。その活動は、事故の詳細な原因分析や統計データの提供、注意喚起のためのリコール情報発信など多岐にわたります。企業はこれらの一次情報を積極的に活用することで、自社製品の設計や改善におけるリスク低減策を迅速かつ効果的に実装できます。また、従業員教育やユーザー啓発活動に取り入れることで、製品安全文化の醸成と長期的な信頼確保にもつながります。
出典: 独立行政法人製品評価技術基盤機構
まとめ
安全を最優先する製品開発とは、単なる法令遵守や事故防止策に留まらず、人間工学的視点と体系的なリスク分析を融合させた総合的な設計プロセスを指します。これにより、想定外の使用環境や突発的な事象においてもユーザーを確実に守る製品が実現し、長期的かつ持続可能なブランド信頼の構築へとつながります。